プロローグ 1





 加賀達樹(かが たつき)は、彼が物心つくよりも前から頻繁に見ている夢がある。


 そこは雲の上のような不思議な空間で、つねに朝もやのような薄ぼんやりした空気がただよっている。
 そしてそこには、三人の巨大な美しい女の人が、蓮の花のようなこれまた巨大な花弁のなかに胡坐をかいて座っていて、達樹を囲んで見下ろしているのだ。
 景色はぼんやりしているが、そこにいる三人と達樹の姿だけは妙にリアルで、感覚もしっかりしている。夢というよりも、魂だけ抜けてその世界に迷い込んでいるという感じだ。


 夢の中では、達樹はその三人の女と知らない言語で会話をしていた。
 英語のようでも中国語のようでもない不思議な音調のその言語は、達樹の住む世界のものではないらしい。
 小さい頃から夢のなかでその言語に触れていた達樹は、いつしかバイリンガルでその言語を操れるようになっていたが、現実の日常で友人たちにその言葉を披露すると、決まって薄気味がられ、不思議ちゃんとか電波とか陰口を言われた。
 だから達樹は、それが嫌で小学生のうちに夢の話自体口外することを止めてしまった。
 学区外の高校に進学した今、その達樹の夢の話と不思議な言語のことを知る者はほとんどいない。




 なぜ、自分だけが、いつもいつもこんなおかしな夢を見るのか。




 彼女たちの話によると、達樹はユーフィールという国を救うために、いつかその国に赴かなければならないらしい。
 そのための知識を教え込むために、こうして彼女たちは達樹の夢のなかに現れるのだという。
 彼女たちはユーフィール国の王家を守護する姉妹神で、彼女たちの言葉を伝えるために、異世界人の神子を育てているのだ。

 そして達樹は、その神子の役目に選ばれた。


 映画や漫画の世界でしかありえない設定。
 普通ならば、ただの夢だと一蹴するところだが、しかし物心つくより前から何度も何度もそう言い含められ、今ではすんなりとその使命を受け入れられるようになった。


 ユーフィール国という、見たことも聞いたこともない異世界へ、神子として降り立つ。
 この日本で平凡に高校生活を送っている自分が、一国の救済者となる。


 巨大な三姉妹神は夢のなかにしか現れないが、達樹にとって、それは決して逃げられない現実なのだった。








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