第1章 8 注意!! ここからは「」が異世界語・『』が日本語に変わります!! セクハラ男の手からなんとか脱し、ほうほうの体で貞操の危機を逃れた達樹は、少しでも遠くに離れるべくとにかく走った。 (ぎゃああ! なんで俺がこんな目にいいい!!) 目が合っただけで野郎にベロチューぶちかまされるだなんて、なんて危険な容姿にしてくれたんだ! 今まで付き合ってた彼女にだってあんな、腰が抜けるほどのエロいキスをしたことないよ。なにか!? 経験不足の俺が悪いのか? だって俺、そんなの教えてくれそうな年上のお姉さまとお付き合いしたことねーんだもん! いたって健全な一般男子高校生なんだって!! 里香、ゴメンな・・・! 俺ってろくなキスもできない不甲斐ない男だったよ。俺のことなんてどうか忘れてくれ。お互い青春の思い出の1ページにしような!! とりとめもない泣き言をぐるぐると脳内でわめきながら、ただひたすらに走り続けたおかげで、気がつくと達樹はいつのまにか森を抜けていた。 『わっ!』 その光景に思わず歓声の声が上がる。 幾重もの木々のカーテンが終わり、突然拓けた視界に飛び込んできたのは、青々とした広大な草原。 その緑の絨毯に囲まれたはるか前方に、巨大な石垣とその上に白亜の城郭がそびえているのだ。 立派な五つの尖塔を持つその城は、500年の歴史を持つ王国に相応しい荘厳なる姿をしていて、快晴の青空のもと、まるで一服の名画のように、中天の太陽が白い壁に反射して輝いている。 (あれは、カリフ城・・・) 達樹は足を止め、その城に見入った。 サーラたち女神の授業で教わった知識によると、リサーク王家の紋章でもある五つの首を持つ巨大な鷲を模して建造され、その鷲の名を持ってカリフ城と呼ばれている。 (・・・そういえば、あのセクハラ男が王宮の森とかなんとか言ってたよな) となると、大体の位置が把握できる。 達樹の脳裏に地図が浮かんだ。 王宮の森は、カリフ城の西側に広がっていて、東側には大きな湖があり、城をはさんで王都サンカッスは北と南に伸びている。 北側にはおもに貴族や高官、身分の高い騎士たちの屋敷が立ち並び、庶民たちの多くは南側に暮らした。 それを聞いたとき、達樹はとっさに(山の手と下町みたいなもんか)と感想を持ったのを覚えている。 日本の江戸時代のごとき住み分けに、ユーフィールという異世界の国にやけに親しみが湧いたものだ。 生まれも育ちも根っからの庶民である達樹は、何の迷いもなくまずは下町、王都の南に向かうことにした。 今のところ徒歩での交通手段しか持たない達樹である。 日暮れまでになんとか宿を見つけておきたかった。なるべくなら、野宿は最終手段にしたいものである。 (それに、これもどっかで換金したいし・・・) これってなんという石なんだろうか? 達樹に宝石の種類はわからないが、とにかく透き通った緑色の石のはまった指輪だ。角度によって赤っぽくも紫っぽくも色が変わって面白い。ただの石っころだったとしても、台は金だろうからそれなりの値はつくだろうと踏んでいる。 それに、指輪だけでなく金のバングルも手首にはまっている。3センチくらいの幅があってこれが結構重いのだ。 (もしや鍛えろってことか?) 鉛入りリストバンドをつけて修業する格闘家のようだ。と、達樹には女神たちの美意識が少しも理解できない。 服に隠れた首元の石は七色に輝く乳白色の大振りな石がついていて、台座はやはり金色の花の形をしている。 見えないから分からないが、どうやら耳にも穴を開けられて、大振りなピアスを付けられているようだった。触った感触では、やはり石がついていて、多分金でできているだろう細工ものらしい輪っかが付いている。それが耳たぶからゆらゆらと揺れるのだから、痛くはないものの、引っ張られているような変な感じだ。 なにはともあれ、まがりなりにも女神が神子のために用意したものである。宝石の価値などまったく分からないのだが、そんなに安物ではないだろう。 (当面の生活費は、これで大丈夫かなあ) いくら祝福の剣技で身は守れても、先立つものがなければ生きてはいけないのである。 こちらには来たばっかりで、身よりもなく一人で生活しなければならないのだから、食いっぱぐれが一番困る。 仰々しい飾り立てには正直辟易していたが、生活資金だと思うと途端にありがたく女神たちに礼を言いたくなった。
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