第1章 10 「」が異世界語・『』が日本語 ふいに、ぽん、と背後から肩を叩かれ、達樹は顔を上げた。 いつのまに寄ってきたのか、髭をたくわえた、あばただらけの中年の男が、やけに人懐っこい笑顔を向けて達樹を見下ろしていた。 きょとんと、達樹が大きな瞳で見つめ返すと、男はごくりと喉を鳴らしたようだった。 「ほう・・・こりゃあ・・・」 「な、なんですか?」 あまり良い雰囲気ではないような気がして、初対面で人を疑うのも悪い気がするが、森のなかのセクハラ男の例もあり思わず身構えて警戒する。 案の定、間近で達樹の美貌を見た男は、下卑た笑いを深めた。 「おいおい、冷たいねえ。お嬢ちゃんみたいにキレイな子が困ってるみたいだったから、声をかけてあげたんだよ?」 「わ、私は女の子ではありません。男です。それに、困ってはおりませんから、どうか、お構いなく」 (ばかやろー! 見りゃ分かんじゃん!!) 神官は、この世界では男しかなれない。当然、神官見習いの格好をしている達樹も、いくら華奢な姿であっても男でしかないはずなのに、お嬢ちゃんなどとわざと言っているに違いなかった。 やけにじろじろと達樹の全身を眺める、その嘗め回すような粘着な中年男の視線に、達樹の肌がぞっと粟立つ。 (ひえええ! なんか、すっごく嫌な感じなんですけど!) 「そんなつれないこと言わないで、おじさんがこの町を案内してあげようじゃないか。ええ? どうせ田舎の祈祷所から出てきたばっかりで道に迷いなすったんだろう? 王都は広いからねえ。おじさんがいろいろ連れて行ってあげようね」 ぐい、と強引に腕を取られて、達樹は慌てた。これでは森での二の舞である。 「お、お止めください。放して・・・」 達樹の抵抗は、しかし逆に男を喜ばせただけだった。サーラさまに神子らしくと徹底的に仕込まれ身に付けさせられた物腰が、世間の野蛮な男たちにとっては嗜虐心を煽るだけの弱々しい獲物に、達樹の姿を作り上げてしまう。 さっきまでは不穏なだけだった男の目に、途端に情欲の色が浮かんだ。 「おいおい、こりゃまた、なんとも・・・・。最初はこれみよがしな宝石だけ戴いちまおうと思ってたんだが・・・石なんかよりよっぽどおまえさんに興味が湧いてきたぜ」 「トーリ、どうした?」 「おお、こりゃたいした上玉じゃねえか!!」 「神官見習いがこんなに飾り立てて、どこの深窓の令息だ?」 「女の子みたいな顔して、いや、こりゃ男のほうが楽しめるか。いひひ・・・」 「ああ。細っこいから、あそこの締りがいいだろうなあ」 中年の男の背後から、似たような年恰好の男たちが次々と顔をのぞかせ、みな一様に達樹の姿を見止め、その触れなば落ちん可憐な風情に、熱に浮かされたように目の色を変えた。 桃色の頬に影を落とす、濡れた黒い睫毛。 思わず舌を這わせたくなる白い首筋と、愛らしく浮き出た鎖骨。 その細い腰に腕を回し、服を剥いですべらかな肌を愛撫することを想像するだけで、男たちの下半身に熱が集まった。 ―――美しい神官見習いの後孔を、自分たちの垢に塗れた熱い一物で突き上げて、大量の精液で汚したい。 ―――その小さな口でいやらしく奉仕させれば、どんなに気持ちがいいだろうか。 じゅるりと、零れそうになるよだれを吸い上げる音が聞こえた。 (き、危険危険危険じゃないか、俺えええ!!!???) 股間を膨らまして自分を取り囲む五人の男たちに、達樹の顔は青ざめた。 (ななな、なんで前がでっかくなってんの!? もしかして俺か? エロい美少年になっちゃった俺が悪いのか? またまた貞操の危機なのか!?) 「さあ、お嬢ちゃん、こっちだよ」 「おじさんたちが、天国に連れて行ってあげるからねェ」 達樹の細い上腕をつかむ、芋虫のような男の指に力が込められた。
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